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16 Jul 2025
新たな研究により、悪性度の高い眼腫瘍である転移性ぶどう膜メラノーマ対して、治療標的となり得る新規標的が発見され、他のさまざまながん種への応用可能性も示唆された。
Nature Genetics誌に掲載された本研究において、Wellcome Sanger Instituteの研究者らとその共同研究者は、遺伝子編集ツールであるCRISPRスクリーニングを用いて、転移性ぶどう膜メラノーマにおいて相互に強く依存している2つの遺伝子、CDS1およびCDS2を明らかにした。
これは、現在不足している、より標的を絞った効果的ながん治療の実現に道を開く可能性がある。
本研究は、さまざまながんに対する遺伝子標的の科学的理解を前進させるとともに、治療選択肢が極めて限られている眼腫瘍患者にとって希望となり得る可能性も示している。
ぶどう膜メラノーマは稀ではあるが致死性の高いがんであり、英国では毎年最大600人が診断されている。この種のがんを治療できる医療施設は、英国国内でわずか4ヵ所しかない。治療法はいずれも侵襲的であり、眼球の外科的摘出や眼球への放射線治療が行われる。これらの治療は奏効率が高く、眼内での再発はまれであるが、全患者の約半数は2~3年以内に肝臓への転移性疾患を発症する。
より多くの代替治療法の必要性に対応するため、Sanger Instituteの研究者らとその共同研究者は、ぶどう膜メラノーマ細胞の遺伝学的特徴をより深く理解することを目指した。
新たな研究において、研究者らはCRISPR-Cas9と呼ばれる遺伝子編集ツールを用いた。この技術はDNAに対して精密な改変を可能にし、がん細胞の生存と増殖に不可欠な単一遺伝子および遺伝子ペアの特定を目的としている。研究者らは、10種類のヒトぶどう膜メラノーマ細胞株を用いてCRISPR-Cas9スクリーニングを実施し、各遺伝子を単独またはペアでノックアウト(機能停止)させることで、致死的な遺伝子間相互作用(いわゆる合成致死ペア)を探した。
研究者らは、ぶどう膜メラノーマに必須の遺伝子を76個、さらに同時に破壊されると致死的な相互作用を示す遺伝子ペア(合成致死ペア)を105組同定した。
本研究の主要な発見は、CDS1およびCDS2という遺伝子に焦点を当てている。これらの遺伝子は、これまで報告されていなかった相互作用様式で協調的に機能している。両遺伝子はともに、ホスファチジルイノシトール(phosphoinositide)合成に関与する酵素をコードしており、この経路はメラノーマを含む主要ながん関連経路に不可欠である。
研究者らは、CDS1の発現が低いがん細胞は、生存においてCDS2に高度に依存していることを明らかにした。CDS2を欠損させると、ホスファチジルイノシトール合成という一種のリン脂質合成が阻害され、これにより腫瘍の増殖が抑制され、細胞死が誘導された。ただし、これはCDS1の発現レベルが低い場合に限って生じる現象であった。CDS1を再導入するとこれらの効果は打ち消され、この遺伝子ペアが腫瘍細胞の生存において相互依存的な役割を果たしていることが確認された。多くの正常細胞ではCDS1が正常に発現していることから、この特性を利用すれば、正常細胞を損なうことなくがん細胞のみを選択的に死滅させることが可能かもしれない。
次に研究者らは、他の種類のがんのデータセットを解析し、CDS1の発現が低いがんが複数存在することを明らかにした。現在、これらの悪性腫瘍においても、CDS1とCDS2の相互作用を標的とすることでがん細胞を効果的に死滅させられるかどうかを検証している。
したがって、本研究は、CDS1とCDS2の相互作用が、さまざまながん種において治療標的となる可能性を持つという新たな視点を提示している。また、この研究は、治療選択肢が極めて限られている希少がん患者にとって、将来的な希望をもたらす重要な足がかりとなる。
本研究の筆頭著者であり、かつてWellcome Sanger Instituteに所属し、現在はThe Royal Marsden NHS Foundation Trustの臨床研究フェローを務めるDr Jenny Pui Ying Chanは次のように述べている。「ぶどう膜メラノーマは稀ではあるが、悪性度の高いがんであり、特に他の臓器に転移した場合、有効な治療法が非常に限られている。この研究は、その現状を変え、将来の患者に希望をもたらすための重要な第一歩である。CDS1とCDS2のような特異的な遺伝的脆弱性を明らかにすることで、将来的により効果的な治療へとつながる新たな治療法への扉を開く可能性がある」
Cancer Research UKのリサーチ・インフォメーション・マネージャーであるDr Anna Kinsellaは次のように述べている。「ぶどう膜メラノーマを治療するには、より良い治療選択肢が必要である。この疾患を分子レベルで理解することが、研究の進展に不可欠である」
「だからこそ、今回の研究結果が、この疾患の背後にある生物学的メカニズムの詳細を明らかにし、それを克服するための新たな可能性を拓いていることは非常に有望である。この発見は、ぶどう膜メラノーマだけでなく他のがん種に対しても、新たな分子標的治療の道を切り開く可能性を示している」
Wellcome Sanger Instituteのグループリーダーであり、本研究の責任著者であるDr David Adamsは次のように述べている。「本研究は、CDS1とCDS2という遺伝子間の特異的な関係によって駆動される、ぶどう膜メラノーマにおけるこれまで認識されていなかった遺伝的関係を明らかにした。この発見は、腫瘍生物学に対する理解を深めるだけでなく、精密医療の新たな治療戦略につながる道を開くものである。特に注目すべきなのは、この発見がぶどう膜メラノーマにとどまらず、より広範ながん種に対しても治療標的となり得る可能性を示唆している点である」
https://ecancer.org/en/news/26694-new-drug-target-for-aggressive-eye-cancer-discovered
(2025年7月4日公開)