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21 May 2025
肺がんは、通常は胎児の発育や母体の免疫系からの回避を助ける遺伝子を利用することがある。
そして、これらの妊娠特異的糖タンパク質(PSG)は男女両方のがんで活性化される可能性があるが、女性患者では予後不良であることが、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)の研究チームによって明らかにされた。
今年のAmerican Associate for Cancer Research Annual Meetingで発表された研究結果によると、この解析結果は、これらの遺伝子を標的とすることで、女性肺がん患者の生存率を改善できる可能性を示唆している。
妊娠中、胎盤はPSGと呼ばれるタンパク質群を産生し、胎児を脅威とみなして攻撃しないように母体の免疫系を調整するなど、妊娠を維持している、と研究の筆頭著者であるMSK医学物理学部のJung Hun Oh博士(associate attending computer scientist)は述べる。
これまでのMSKの研究では、肺がん、乳がん、子宮がん、大腸がんの患者の約20%でPSG遺伝子が活性化していることが明らかになっており、これらの患者は一般的に予後不良であることが判明している。
この新たな研究は、これらの知見に基づき、PSG遺伝子が活性化している肺がん患者において、男女間で予後に有意差があることを明らかにした。
上席著者で医学物理学部長のJoseph Deasy博士の指導のもと、研究チームは機械学習と呼ばれる人工知能の一種を用いて解析を行い、PSG遺伝子を発現しているがんを有する女性患者は、男性患者より著しく予後が悪いことを示した。
さらに、この解析により、複数の特定のPSG遺伝子が活性化している場合、特に予後が不良であることが判明した。
同研究者らはまた、こうした差異を説明する手がかりとなる可能性のある要素も発見した。PSGを発現している女性肺がん患者では、KRASシグナル伝達経路にも変化が見られることが多かった。
細胞の増殖と分裂に重要なKRAS遺伝子の変異は、肺がんで高頻度に認められる。
しかし、男性肺がん患者におけるPSGの発現は、予後を悪化させることはなかった。
この解析は、2種類のRNA-Seq発現データセットを用いて実施された。
このデータには、Cancer Genome Atlas (TCGA)に登録された男性患者235名と女性患者271名が含まれており、Clinical Proteomic Tumour Analysis Consortium (CPTAC)の男性患者70名と女性患者36名で検証された。CPTACでは、全生存期間への影響がさらに強く現れていた。
研究チームは、この研究結果をもとに、PSGの発現とKRAS経路の活性化の関係を解明するため、さらに助成金の獲得を目指すとともに、妊娠歴およびホルモン関連遺伝子が果たす役割を調査する予定である。
「PSGに関連する経路を標的とすることは、女性肺がん患者、さらにはPSGが活性化している他のがんにおいても、予後を改善する可能性のある新たな戦略となる」とDeasy博士は述べている。
「PSGは通常、妊娠時以外では発現しないため、有望な薬剤標的となり得る」
その他の著者には、MSKのGabrielle Rizzuto医学博士、Rena Elkin医学博士、Corey Weistuch医学博士、Larry Norton医学博士、およびUniformed Services University of Health SciencesのGabriela Dveksler医学博士が含まれる。
本研究は、National Cancer Institute(R01CA285801、P30CA008748)およびBreast Cancer Research Foundation(BCRF-17-193)の一部支援を受けて実施された。
Norton博士は、外部でのコンサルティング業務と報酬の受領が複数あることを報告している。
詳細については学会要旨をご参照ください。
(2025年4月30日公開)