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30 Jan 2025
University of Colorado Anschutz Medical Campusの研究者らは、がんなどの疾患と闘うために遺伝子操作されたCAR-T細胞の一部に、細菌、ウイルス、その他の抗原と過去に遭遇した記憶が保持されていることを発見した。この発見により、研究者はより正確で標的を絞った方法で細胞を製造できる可能性がある。
Nature Immunology誌に掲載されたこの研究は、がん、特に白血病およびリンパ腫に対して有効な治療法であるキメラ抗原受容体 (CAR) -T細胞に焦点を当てたものである。
免疫細胞の一種であるT細胞を患者の血液から採取し、がんを標的とするように改変して患者の体内に再び戻す。
今回、研究者らは、これらの細胞の一部が長期にわたる永続的な記憶を有していることを発見した。
CARを細胞内に挿入するための大規模な製造プロセスを経た後でも、過去に抗原を認識したことのあるCAR-T細胞は、認識したことのない細胞とは異なる動きを示すことを、研究者らは見出した。
「ほとんどの薬剤とは異なり、CAR-T細胞製剤は均一ではない。ばらつきがあることは分かっているが、そのばらつきの性質は理解され始めたばかりである」と、本研究の上席著者であり、University of Colorado School of Medicineの小児科、腫瘍学、血液学教授で、CAR-T細胞を製造するUniversity of Colorado Anschutz Medical CampusのGates Instituteエグゼクティブ・ディレクターでもあるTerry Fry医学博士は述べた。
「驚くべきことは、過去の抗原との相互作用が細胞に永続的に刷り込まれていたことである」
Fry氏とこの研究の筆頭著者でCU Anschutzの免疫学研究者であるKole DeGolier博士は、以前抗原を認識した「記憶細胞」はがん細胞を迅速に殺傷するが、すぐに疲弊してゆっくりと増殖し、潜在的な再発の可能性があることを発見した。
同時に、抗原を認識していない「ナイーブT細胞」の強力な増殖や消耗に対する抵抗性など、病気と闘う上で有利な能力を有することも発見した。
この2種類の細胞を直接比較することで、研究者らは機能を調節し改善するための特定の遺伝子標的を特定することができた。
彼らは、RUNX2のような遺伝子を標的とすることで、ナイーブT細胞を特に活性化できることを見出した。
また、この細胞は記憶細胞よりも寿命が長く、増殖も早かった。
「これらのエピジェネティックな違いを利用して、機能を変更するために操作できる遺伝子を特定することが可能である」とDeGolier氏は述べた。
この研究はまずマウスモデルで行われ、次にヒト細胞で行われた。
T細胞は、ワクチン接種者および未接種者から採取した。
ワクチン接種を受けたモデルの細胞は、リンパ節でワクチン抗原と遭遇した後に変化した。
その後、白血病細胞に対して迅速かつ効果的に反応するようになったのは、以前に抗原に曝された「記憶」のためである。
しかし、ナイーブT細胞よりも早く疲弊してしまった。
ナイーブT細胞は記憶細胞のような病気と闘う刷り込みがない一方で、RUNX2を加えるとより効果的になった。
また、長期的に存在し、その遺伝子が消耗から守り、がんと闘い続けることを可能にした。
「このバランスは、細胞の過去の歴史によって左右される。ナイーブT細胞にRUNX2を加えると、がんの殺傷能力を少し高めることができる」とFry氏は述べた。
「われわれの研究では、RUNX2とともに探究できる他のタンパク質についても、大規模なデータセットを作成した」
この知見は、CAR-T細胞をより精密に操作することにつながり、がんをより効果的に攻撃できるようになると同時に、強い炎症反応などの副作用を軽減できる可能性がある。
「これらの違いを理解することで、特定の細胞属性を合理的に操作するアプローチを開発することができる」と著者らは記している。
「特に、疲弊化が抗腫瘍T細胞応答の制限に大きな役割を果たしている固形腫瘍では、疲弊を制限するプログラムでのRUNX2の効果についても、さらに研究する必要がある」
https://ecancer.org/en/news/25843-car-t-cells-hold-memories-of-past-encounters
【2025年1月3日公開】