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01 Oct 2024
Johns Hopkins Kimmel Cancer Centerが行ったマウス研究によって、皮膚の線維芽細胞の加齢に伴う変化が、男性における侵襲性が高い治療抵抗性メラノーマの発症に寄与していることが明らかになった。
この研究は9月6日付のCell誌オンライン版に掲載された。
メラノーマは死に至る可能性のある皮膚がんであり、発症リスクは加齢とともに上昇する。Johns Hopkins大学のBloomberg Distinguished Professor、E.V. McCollum Professor、生化学・分子生物学科長であるAshani Weeraratna博士によると、男性は女性よりもメラノーマの発症リスクが高く、特に高齢になると侵襲性が高く治療が困難なメラノーマを発症する傾向があるという。この研究は、現在フィラデルフィアのFox Chase Cancer Centerの助教であるYash Chhabra博士と共同で主導された。
Weeraratna氏らは先行研究で、腫瘍細胞の周囲にある正常細胞(腫瘍微小環境)の加齢に伴う変化が、がんの転帰に関与していることを明らかにした。そこで、年齢と性別に関連した変化が相互に作用して、メラノーマにおける性差の一因となるかを調べるために本研究を行った。
「メラノーマは女性に発現した場合よりも男性に発現した場合の方がはるかに侵襲性が高い」とWeeraratna氏は述べている。「男性と女性では腫瘍周囲の正常細胞の老化が異なるのだろうか?」
線維芽細胞は、皮膚構造を支え強度をもたらすタンパク質であるコラーゲンを産生する。以前の研究でWeeraratna氏らは、線維芽細胞の加齢性変化がメラノーマ腫瘍細胞の転移を促進し、転帰を悪化させることを明らかにした。今回、線維芽細胞の老化が男女で異なっており、男性の線維芽細胞で起こる加齢に関連した変化が侵襲性が高い治療抵抗性メラノーマの一因であることが確認された。
メラノーマ細胞を老化した雄マウスまたは雌マウスに移植したところ、雄マウスに移植した細胞により多くのDNA損傷が蓄積していることがわかった。移植された腫瘍細胞が雄マウスから採取されたものか雌マウスから採取されたものかは関係なかった。
「腫瘍細胞そのものがオス由来かメス由来であるかは関係ない」とWeeraratna氏は述べた。「腫瘍微小環境を構成するオスの線維芽細胞における加齢に関連した変化が、DNA損傷の違いに関与していた」
高齢の男性と女性の線維芽細胞を比較した実験では、男性の線維芽細胞はストレスと損傷の原因となる活性酸素を蓄積していることがわかった。また、高齢男性の線維芽細胞は骨形成タンパク質2(BMP2)をより多く産生することも発見した。これは通常、骨や軟骨の発達に関与するタンパク質である。
遺伝的アプローチあるいは組み換えタンパク質によるアプローチでBMP2産生を高めるとメラノーマ細胞の浸潤性が高まり、標的抗がん剤に抵抗性を示すようになる。
天然の阻害剤を用いてBMP2産生を阻害すると、雌雄両方のマウスで抗がん剤治療に対する感受性が高まる。
この研究はがん研究にとって重要な意味を持つ。
現在、ほとんどの前臨床癌研究は若いマウスを使って行われている。しかし、Weeraratna氏は高齢のマウスや高齢のヒトの細胞でがん研究を行うことが不可欠であることを示している。
「また、男性と女性で治療に対する反応が異なるかどうかを理解し、性差と年齢差の両方により適した治療を行う必要がある」と同氏は述べた。
Weeraratna氏らは現在、メラノーマ細胞を取り囲む免疫系細胞の加齢や性別による変化が、メラノーマの治療に用いられるようになってきた免疫療法に対する腫瘍の反応にどのような影響を及ぼすかを研究している。
また、膵臓がんなど他のがんについても加齢や性別による変化を研究したいと考えている。
(2024年9月9日公開)