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29 Jun 2023
Tel Aviv University(TAU)とSheba Medical Centerで行われた新しい研究は、メラノーマ細胞が目的を果たすために身近な環境にどのような影響を及ぼすかを明らかにした。その方法とは、がん細胞が皮膚の奥深くまで入り込んで体中に広がるために、真皮に新しいリンパ管を形成することであった。
研究者たちは、この新たな発見が致死率の高いがんに対するワクチンの開発に役立つ可能性があると考えている。
この科学的ブレークスルーは、TAU医学部のCarmit Levy教授とSheba Medical CenterのShoshana Greenberger教授の主導によって行われた。
この研究結果はJournal of Investigative Dermatology誌に掲載された。
皮膚がんの中で最も致命的であるメラノーマは、皮膚の一番上の層である表皮に存在するメラノサイト細胞の無秩序な分裂から始まる。
第二段階でがん細胞は真皮に浸潤し、リンパ系や血液系を介して転移する。
以前の研究では、メラノーマ周辺で皮膚のリンパ管の密度が劇的に上昇することが観察された。ただ、このメカニズムはこれまで解明されていなかった。
「我々の主な研究課題は、メラノーマがリンパ管の形成にどのような影響を与え、そこから転移するのかということだった」とGreenberger氏は説明した。
「我々は、表皮で生じる第一段階でメラノーマ細胞がメラノソームと呼ばれる細胞外小胞を分泌することを初めて証明した。これらの小胞は何であり、どのように環境に影響を与えるのか? 病理学研究所のヒトメラノーマでこれを調べ、メラノソームがリンパ管に浸潤することを実証した。次に、実際のリンパ管細胞の環境においてメラノソームの行動を調べたところ、ここでもメラノソームは細胞に浸潤し、複製と移動のシグナルを発していることが分かった。つまり、原発性メラノーマは細胞外小胞を分泌し、それがリンパ管を貫通し、腫瘍の近くにさらに多くのリンパ管の形成を促し、メラノーマが転移して致死的な段階まで進むことを可能にしている」
Carmit Levy氏はさらに次のように補足した。「メラノーマ細胞は皮膚の真皮層に到達する前に、メラノソームと呼ばれる細胞外小胞を分泌する。これらの小胞は真皮の環境をがん細胞に有利なように変化させる。したがって、メラノーマ細胞は真皮をリンパ管で満たす役割を持ち、これによって自らの転移のための基盤を整えている。我々はメラノソームがリンパ細胞だけにとどまらず、例えば免疫系にも影響を与えることを実証するために複数の研究を継続して進めている」
転移前の段階ではメラノーマの危険性は低いため、リンパ系や血液系を介して転移する仕組みを理解することで、この致死率の高いがんに対するワクチンの開発に貢献できると考えられる。
「皮膚に残ったままのメラノーマの危険性は低い」とGreenberger氏は述べている。
「したがって最も有望なメラノーマ治療の方向性とは、メラノソームと闘う免疫系を呼び起こし、特にメラノソームがすでに浸潤しているリンパ管内皮細胞を攻撃するワクチンを開発することである。リンパ節に転移する仕組みを止めることができれば、がんが広がるのを食い止めることも可能である」
(2023年6月15日公開)