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23 May 2023
人体の細胞は、どのようにして環境の物理的・化学的変化に迅速に対応できるのだろうか。
遺伝子変異は細胞の性質に変化をもたらすが、非遺伝的なメカニズムが迅速な適応を促すこともあり、この現象は広く細胞の可塑性と呼ばれる。
細胞の可塑性は、健康や病気における基本的な生物学的プロセスに関与している。
例えば、腫瘍細胞は増殖性の高い状態から浸潤性の高い状態へと変化し、がんの転移に寄与することがある。
また、炎症が起きると、免疫細胞は炎症反応を実行する細胞へと変化し、組織の修復を促進することがある。
このたび、パリにあるキュリー研究所の研究グループが、このような過程を分子レベルで引き起こす新たな原因を発見し、科学雑誌『Nature』に掲載された。
その結果、転移形成を担う細胞や炎症や敗血症性ショックに関与する免疫細胞では、細胞の可塑性の変化に関与する銅の量が増加していることがわかった。
具体的には、銅はエネルギー産生を担う細胞内の小器官であるミトコンドリアに蓄積される。
さらに、研究者らは糖尿病治療薬のメトホルミンをベースに、この銅に結合して不活性化することで、これらのプロセスを阻害することができる新しい低分子薬剤のような分子を開発した。
世界では年間1,100万人以上が敗血症性ショックで死亡しており、がんの死因の9割が転移によるものであることから、新薬を開発することで、世界規模で多くの患者を救うことができるのではないかと大きな期待が寄せられている。
https://ecancer.org/en/news/23077-septic-shock-and-metastases-finding-the-culprits
(2023年5月12日公開)