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26 Jul 2022
Francis Crick Instituteの研究者らは、肺がんによく見られる遺伝子変異を阻止する薬剤と免疫療法を併用することで、特定の種類の肺腫瘍に対して有望な新しい併用療法になる可能性があることを発見した。
この研究成果は、本日(7月20日)Science Advances誌に掲載され、この併用療法が有効かどうかを確認するための臨床試験の対象患者を選択するのに役立つと考えられる。
毎年約180万人が肺がんで亡くなっており、世界的に見てもがんによる死亡原因の第1位となっている。
免疫療法が有効な人もいるが、ほとんどの患者には効果がない。
診断から5年以上生存している人は4分の1に過ぎず、新しい治療法や既存の薬剤の新しい組み合わせの発見が急務となっている。
「近年、免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤とKRAS阻害剤の併用が有効であるかどうかが注目されている。この阻害剤は、細胞の増殖と死滅を制御する遺伝子であるKRASの変異型を阻害することで効果を発揮する。この変異は肺がん患者の約3分の1に見られるため、有望な治療ターゲットである」と、著者であり、主要グループリーダーでFrancis Crick Instituteの副所長であるJulian Downward氏は説明する。
今回の研究では、マウスを用い、免疫チェックポイント阻害剤とKRAS阻害剤を併用した場合の効果を検討した。
すでに免疫細胞の活性が高い腫瘍、いわゆる「免疫ホット」腫瘍では、この治療法はがんをうまくコントロールすることができた。
しかし、免疫系が強い反応を示さないケースでは、併用療法は効果がなかった。
2021年には、KRAS阻害剤としては初めて、KRASG12C変異を有する非小細胞肺がん症例への使用が承認された。
そして、この阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤との併用効果を調査するさまざまな臨床試験が進行中である。
しかし、これらの試験のほとんどは、すでに免疫チェックポイント阻害剤を投与され、効果が得られなかった患者のみを対象としている。
免疫療法がうまくいかなかったことから、彼らの腫瘍は「免疫ホット」ではないことが示唆され、この研究によれば、併用療法が奏効する可能性も低いということになる。
研究者らは、有効な組み合わせが最も反応しやすい患者に対してテストされるように、「免疫ホット」腫瘍の患者を含む臨床試験を行うよう呼びかけている。
「KRAS阻害剤は非常に新しい薬剤なので、どのような場合に最も効果があるのか、どのような治療と組み合わせれば患者がより長く生きられる可能性が高いのか、まだわからないことがたくさんある」
「今回の研究は、免疫チェックポイント阻害剤とKRAS阻害剤の併用が特定のがんに有効である可能性を示唆しており、その重要な一端を担っている。このことを今後の臨床試験のデザインに反映させることが重要である」と、著者であり、Francis Crick InstituteのOncogene Biology laboratoryの主任研究員であるMiriam Molina Arcas氏は説明している。
また、KRAS変異が腫瘍、腫瘍周辺の環境、免疫系に与える影響についても調査した。
その結果、肺がんでは、変異したKRASが免疫系を活性化するシグナルを弱める一方、腫瘍を支える環境を整えるホルモン様分子を促進していることがわかった。
マウスモデルで変異した遺伝子を阻害したところ、これらの腫瘍促進作用は起こらなかった。
例えば、腫瘍の環境下では、免疫系を抑制する細胞が減り、がん細胞を殺す細胞傷害性T細胞が増えた。
KRAS遺伝子は、メラノーマ、腸がん、膵臓がんなど、がん全体の約20%に関与しているRAS遺伝子ファミリーの一員である。
研究者らは、RAS阻害剤に耐性を持つようになったがん細胞を排除するために免疫系を刺激する方法を研究するなど、がんにおけるこの遺伝子ファミリーの役割に関する研究を続ける予定である。
(2022年7月20日公開)