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e-cancer:脳および神経系 マウスの神経系腫瘍の増殖を抑制するてんかん治療薬

02 Jun 2022

神経線維腫症1型(NF1)の患者は、身体中の神経に腫瘍が生じる。

この腫瘍は通常良性で、身体の他部位に広がらず、生命を脅かすものではないと考えられるが、特に脳や神経に発生すると、失明等、深刻な医学的問題を引き起こすおそれがある。

Washington University School of Medicine(セントルイス)の研究者らは、Nf1遺伝子に変異を認める神経細胞が過剰興奮することを発見し、米国食品医薬品局(FDA)がてんかん治療薬として承認したラモトリギンを用いて、その過剰な活性を抑制すると、マウスの腫瘍増殖を阻止できることが分かった。

「NF1患者は腫瘍が極めて多い」と、上席著者でWashington UniversityのDonald O. SchnuckのFamily Professorであり、Neurofibromatosis (NF) CenterのDirectorでもあるDavid H. Gutmann, MD, PhDは述べた。

「我々は、神経細胞の過剰興奮を遮断してNF1腫瘍の増殖を抑制できることを示した。これまでにいくつか異なる方法を試してきたが、少なくともマウスでは抗てんかん薬の転用が腫瘍増殖を抑制する有効な方法であることに疑いはない。これは腫瘍の生物学において神経細胞が重要な役割を果たすことを明確に示している」

同研究は、Nature Communication誌5月19日号に掲載された。

NF1は世界で3,000人に1人が罹患する遺伝性疾患である。

その原因はNF1遺伝子の変異である。

身体のどの部位にも発症するが、同疾患の主徴は皮膚に生じる薄茶色の斑、神経線維腫と呼ばれる良性神経腫瘍、脳や視神経の腫瘍、骨変形のほか、自閉症、学習障害および注意欠如・多動症等、認知能力の違いである。

昨年、Gutmann氏とStanford University School of Medicine神経学教授でHoward Hughes医学研究所の研究者でもあるMichelle Monje, MD, PhDは、光によってNf1変異マウスの両眼の神経細胞に活性増強が誘導され、目と脳を繋ぐ視神経に腫瘍が生じることを示した。

この新たな研究で、同氏らは筆頭著者でWashington University神経学助教のCorina Anastasaki, PhDおよび共著者でUniversity of Texas, Southwestern Medical Center皮膚科学教授Lu Q. Le, MD, PhDとともに、神経細胞の活性亢進がどのようにしてNF1患者に腫瘍をもたらすかを調べた。

Nf1遺伝子に変異があるマウスと変異がないマウスの神経細胞を調べた。

ベースライン時に腫瘍の原因であるNf1変異があるマウスの神経細胞は、正常マウスの神経細胞に比べて、高頻度に電気インパルスを発した。

そして、このように過剰興奮した神経細胞が、脳や神経の腫瘍増殖を亢進する分子を放出する。

研究者らが発見したこの過剰興奮は、神経細胞のベースラインの電気活性を変える機能不全のイオンチャネルによるものであった。

彼らはまた、脳や神経に腫瘍が発生していないNF1患者でみられるNf1変異を有するマウスも調べた。

Anastasaki氏は、この特異なNf1変異マウスの神経細胞が過剰興奮を起こさず、腫瘍を発生しないことに気づき、このNF1患者群に視神経膠腫または神経線維腫が発症しない理由を初めて示した。

過剰興奮する神経細胞はてんかんの特徴でもあり、てんかん治療薬ラモトリギンは過剰興奮するNf1変異神経細胞で破壊されたものと同じイオンチャネルを標的とする。

研究者らは、視神経に腫瘍が発生したNf1変異マウス群にラモトリギンを投与した。

ラモトリギン投与群はプラセボ群に比べて腫瘍が小さく、それ以上増殖しなかった。

このような知見はNF1腫瘍を治療する新たな方法を示すだけでなく、この疾患の認知症状の原因を考える新たな道筋も示した。

「Nf1遺伝子が変異すると、神経細胞の基本的な生物学が変わる」とGutmann氏は述べた。「成長過程で、まず神経細胞が作られ、脳の他部位をどのように構成するかを指示する。神経細胞の挙動に影響する変異があれば、成長過程で脳の構成がすべて変わる可能性もある。これまでに学習障害を予防しようと試みた研究は、どれもうまくいかなかった。おそらく今回の発見は、NF1小児の学習および認知の問題に対する新たな治療法にもつながるだろう」

「私はこのような知見の科学的、および医学的影響に大変興奮している。過剰興奮ではないが、興奮しているのだ」と同氏は補足した。

https://ecancer.org/en/news/21868-epilepsy-drug-stops-nervous-system-tumour-growth-in-mice

(2022年5月20日公開)

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