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12 Apr 2022
がん細胞は、最初は体内の一カ所にとどまっていても、やがて骨、肺、肝臓、脳などの離れた部位に転移し、特定の組織環境に応じて新たな性質を持つようになる。
Cancer Research誌に発表された研究において、マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究者主導のチームは、単一細胞タンパク質解析を用いて、ある特定の療法がなぜ一部の転移したがんに対し効果があるのに他のがんには効果がないのかを裏付ける可能性のあるこれらの変化への洞察を明らかにした。
この研究結果は、臨床医が個々の患者に合わせた治療を行う際に役立つ可能性がある。
がん細胞が転移した後に呈する適応により、キナーゼと呼ばれるタンパク質の発現を変化させ、これらのタンパク質を標的とするように設計された薬剤に対する反応性を増減させる可能性がある。
このことを明確にするために、研究者らは前立腺がんを有するマウスのさまざまな部位に転移したがん細胞が発現するタンパク質を調べた。
その結果、原発腫瘍や肺、肝臓転移と比較して、骨転移は、がんを活発にすることで知られているホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)/哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)伝達経路の一部であるキナーゼを過剰に発現させることが分かった。
腫瘍内でも、PI3K/mTOR経路に関与するキナーゼの発現量が細胞間で異なっており、上皮細胞(体表面、体腔、臓器を覆う)由来のキナーゼは間葉細胞(他のさまざまな細胞種を含む)由来のものより高い発現量であった。
この研究結果は、PI3K/mTOR情報伝達が亢進した上皮腫瘍細胞集団はこの経路に関与するキナーゼを標的とする薬剤に自然に反応する態勢があることを示唆している。
これらの薬剤の多くは、すでに承認されているか、または臨床研究中である。
「がん細胞の不均質性、すなわちがん細胞間の差異は、患者の治療成績に影響を及ぼす主要な交路因子の一つである」と、Mass総合がんセンターおよびMGH外科部門分子生物学者である上席著者のShyamala Maheswaran PhDは述べている。「併用療法を検討する際には、さまざまな転移部位における、また上皮がん細胞や間葉がん細胞など、異なるがん細胞の状態におけるキナーゼ活性の不均一性を考慮する必要がある」
(2022年3月23日公開)