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e-cancer:がん全般 腫瘍が免疫細胞の増殖を促す仕組みを研究により解明

02 Nov 2021

Ludwig Cancer Researchの研究チームは、マクロファージとして知られる免疫細胞を、腫瘍を破壊するデストロイヤーから腫瘍の増殖と生存を促すサポーターへの転換をがん細胞が操る方法を特定した。

ローザンヌにある同研究所のPing-Chih Ho氏とポスドク研究員のGiusy Di Conza氏が主導する新たな研究により、皮膚がんのメラノーマのマウスモデルで、腫瘍内のマクロファージのこのような変化はがん細胞が放出する脂肪の分子(脂質)に促されることが明らかになった。

また、Nature Immunology誌の最新号で発表されたこの研究は、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)のこの「分極化」を引き起こす鍵となる事象と分子的にその作用を担うものもいくつか同定した。Ho氏、Di Conza氏らによる研究チームは、この役割を担う脂質であるβ-グルコシルセラミドがTAMで受容体と結合することを示し、小胞体(ER)として知られる管状細胞構造体の細胞小器官内でストレス反応を誘発することを明らかにした。

これにより、細胞内で少なくとも2つのシグナル伝達カスケードが作動し、マクロファージの転換をスムーズに進める遺伝子の発現が促進される。

本論文の筆頭著者であるDi Conza氏は、「この研究により、これまで解明されていなかった腫瘍が自らの利益になるように免疫系を操作するメカニズムが明らかになっただけでなく、マクロファージを抗腫瘍性の表現型に戻してがん治療につなげるという薬剤での標的化を可能にするシグナル伝達の事象を特定することができた」と述べている。

Ho氏、Di Conza氏らによる研究チームは、腫瘍の増殖を助けるTAMが通常の脂質含量より多いこととERの腫脹という2つの特性を示すことが観察されたことを踏まえてこれらの研究を開始した。腫脹は通常、ERのストレスの徴候であり、研究チームは腫瘍の増殖を助けるTAMでのストレス応答タンパク質の値の上昇を指摘した。そのようなタンパク質の一形態であるXBP1は最近、他の免疫細胞の機能を抑制することと関連付けられたが、これはTAMが腫瘍の増殖を助ける状態、すなわち表現型に偏る場合に欠かせないものであると思われた。

このような結果は、がん細胞における脂質代謝の異常が抗腫瘍免疫を阻害する腫瘍の微小環境への脂質の蓄積を引き起こすという別のエビデンスと整合する。

Di Conza氏によると、「腫瘍内の代謝物は腫瘍の表現型に限らず、腫瘍の微小環境での免疫細胞の形成にも重要であることが判明している。したがって、がん細胞とマクロファージとの間に、マクロファージに対し悪者になるよう指示を出すような代謝における関連性があるのではないかと我々は考えた」

研究チームはこの可能性について、マウスの腫瘍細胞を培養した条件培地から脂質を除去し検証した。その結果、TAMが腫瘍の増殖を助ける表現型へと転換することを阻止できた。

研究チームは次に、TAMの分極化を引き起こす特定の脂質の同定を試みた。皮肉にも、この困難なタスクを助けたのがCOVID-19のパンデミックであった。Di Conza氏はパンデミックの影響で研究室に入室できず、脂質の認識や結合に携わる遺伝子のデータの精査に時間を割いてやり過ごした。そのときに彼女は新たな手がかりを得たのである。

マクロファージの表面で認められる、Mincleと呼ばれる脂質受容体をマウスのがん細胞が増殖している培地に曝露したところ、顕著な活性化が認められた。Di Conza氏の研究チームは、MincleにはマクロファージでのERのストレス反応と脂質の蓄積を誘発する可能性があるという特異な性質を腫瘍の増殖を助けるTAMで観察したのであった。

抗体を用いてMincleの活性を阻害すると、TAMの腫瘍の増殖を助ける状態への分極化が顕著に抑制される様子が認められた。

Mincleの関与により、研究チームはβ-グルコシルセラミドに注目することとなり、脂質はMincleと結合する腫瘍微環境へ放出された。がん細胞によりその産生が不可能になると、腫瘍の増殖を助けるTAMが減少する結果となり、マウスでの腫瘍増殖を遅らせた。

ローザンヌにあるLudwig Cancer ResearchのアソシエイトメンバーであるHo氏は、「今回の結果から、がん細胞がストレスへの反応としてこの脂質を上方制御すると推測される。β-グルコシルセラミドの分泌は、それらのがん細胞が援助を必要とすることを周囲の細胞に知らせ、それはまた、微小環境でマクロファージが腫瘍形成を助ける方向に機能的に偏ることを促すことにもなる」と説明する。

以降の実験でさらに明らかになったことは、XBP1が腫瘍の増殖を助けるTAMで活性化され、この遺伝子を除去すると腫瘍の増殖が遅くなることであった。また、XBP1がTAM の分極化に極めて重要な役割があるだけではなく、がん細胞の生存を支えていることも判明した。

なお、腫瘍の増殖を助ける表現型を促すにはXPB1のみでは不十分である。その他の実験は、別のシグナル伝達カスケードがTAMの分極化を誘発するためにXBP1を関わらせるものと同調していることを示していた。これは、シグナル伝達タンパク質と、DNAに結合して遺伝子の発現を直接制御するSTAT3という名称の転写因子が関与する経路であることが判明した。

現在では、TAMの分極化の鍵となる事象と分子的にその作用を担うものがいくつか同定されているが、薬剤によりそれらを標的化し、このプロセスを遅らせる、あるいは逆転さえさせることは可能と考えられる。

https://ecancer.org/en/news/21153-study-shows-how-s-urn-immune-cells-into-enablers-of-their-growth

(2021年10月26日公開)

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