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03 Aug 2021
英国生理学会(The Physiological Society)の2021年の年次大会(Annual Conference Physiology 2021)で発表された新たな研究によると、運動中に血流中に放出される分子(小タンパク質など)は腸がん細胞に直接作用し、その増殖速度を抑えるという。
定期的な身体活動が腸がんの発症リスクを減少させることは、先行研究により明らかにされている。これは主として、身体活動が本人の健康的な体重維持に役立つために生じるものと考えられる。
今回の新たな研究は、身体活動が体重減少につながらないとしても、身体的に活発であることが腸がんになるリスクを減少させる可能性があることを示している。
これらは予備的知見ではあるが、身体活動とがんリスクを結びつける機序への理解を深めることは、がんの発症予防に最も有効な運動プログラムの作成に役立つ。
また、運動の何らかのベネフィットを模倣したような薬剤を開発するうえでも役立つ可能性がある。
さらに、この研究は最終的に、腸がんのスクリーニング計画の一環として標準的なケアの一つである運動こそ、がん発症者数の抑制につながる。
この研究は、腸がんの生活習慣上の危険因子(全参加者は50歳以上で、過体重または肥満を呈し、定期的に運動する習慣がなかった)をもつ男性参加者16名を対象に行われた。
研究者らは、屋内で自転車に乗る「中等度」の運動を45分間行う前後と、運動を行わない「対照」的な実験の前後に、参加者から血液サンプルを採取した。
そのサンプルを使用し、特定のタンパク質の血中濃度が運動によって変化するか否かを評価した。
そのうえで、最後にラボにて、タンパク質を含有する各血液サンプルの液体成分(血清として知られる)を腸がん細胞に添加し、がん細胞の増殖を48時間にわたりモニタリングした。
この研究の主な限界は、がん細胞が増殖したのは厳しく管理されたラボ環境下にある培養皿であるという点である。
ヒトのがん腫瘍は非常に複雑で、また周りを取り巻く血管や免疫細胞といった周囲の環境と相互作用するものである。
つまり、この研究結果が実際のがん腫瘍に必ずしもあてはまるとは限らないことを意味するが、それは研究者が今後詳しく調査する予定である。
今回発表した本研究の筆頭著者であるSam Orange博士は、次のように述べている。「この研究に続いて、今後いくつか把握したいことは、例えば、具体的に血中のどの分子が腸がん細胞の増殖を抑える働きをもつのかといった点や高強度の運動を行うと中強度の運動を行った場合に比べ、腸がん細胞の増殖に与える影響はより顕著になるか否か、といった点である」
https://ecancer.org/en/news/20639-the-effect-of-acute-exercise-in-humans-on-cancer-cell-growth
(2021年7月16日公開)