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06 May 2021
がん性腫瘍を容赦なく死滅させる修飾された免疫細胞は、後期がん患者にとって、画期的な変化をもたらす可能性がある。
ナチュラルキラー(NK)免疫細胞の代謝を変えると、腫瘍内に認められる厳しい条件をこれらの細胞が克服し、進行した卵巣がんや肺がんを破壊できることMcMaster Universityの研究者であるAli Ashkar氏とSophie Poznanski氏が明らかにした。
過去10年間で、がんの免疫療法は血液がん患者において素晴らしい治療効果を成し遂げてきた。しかしながら、固形腫瘍内で認められる免疫抑制状態は、その細胞の急激な増殖が周囲の健全な組織からエネルギーを奪い、これまでは免疫細胞療法にとって手強い障壁のままであった。
本研究を担当したMcMaster Universityの博士課程学生Poznanski氏は次のように語る。「この研究では、NK細胞の代謝、つまりエネルギーの”ハブ”が腫瘍によって無力化することを、さらにはエネルギー危機に遭遇し腫瘍を死滅させる機能を喪失する原因はNK細胞であることを発見した。
この点を理解することで、我々はそのエネルギー産生を復元する既存の代謝薬を活用してNK細胞の機能不全を逆転させることに成功した」
Poznanski氏はVanier奨学生で、Cell Metabolism誌に発表した本論文の筆頭著者である。
これらの所見は、NK細胞が腫瘍によって抑制される仕組みに関する長年の疑問への答えとなったが、この研究ではもう一つの大きな発見があった。
「”敵に勝つには敵の思考を知るべし”という格言が古くからあるが、NK細胞は腫瘍の代謝を模倣するように修飾できるということがこの研究でのもう一つの発見であった」とPoznanski氏は語る。
同氏は修飾されたNK細胞は、厳しい腫瘍環境に実に良く適応することが証明されたと付け加える。
「これまでは、修飾されたNK細胞が腫瘍内での抑制をうまく阻止することだけを願っていたが、今回、抑制がみられないばかりか、その外側よりも逆に内側で優れた機能を発揮すると分かり驚愕した」
カナダのCanada Research Chair in Natural Immunityで医学部教授を務める上席著者であるAshkar氏は次のように述べている。「これは、腫瘍の手強い特性をこちら側の利点に利用する抗腫瘍免疫細胞を報告した最初の研究となる。
腫瘍のような代謝を示す細胞毒性のある免疫細胞を生成することは、固形腫瘍の非常に厳しい環境で抗腫瘍機能を発揮するための重要ポイントとなる。これは、免疫細胞ベースのがん免疫療法のパラダイムシフトとなり得る」
これまでNK細胞は血液がんに対してのみ有効であることが判明していたが、同氏は「再プログラムされ、訓練されたNK細胞は、末期がん患者にとって安全かつ有効な治療法の選択肢となり得る。例えば、肺がんと卵巣がんの2例は、過去30年にわたり生残率が低いままであった」とコメントしている。
さらに、同氏によれば、NK細胞による免疫療法はすでに副作用がほとんどなく安全であることが実証されている。
McMaster Universityの腫瘍学の準教授であり、Hamilton Health Sciencesの腫瘍学専門医を兼任する本研究の著者であるHal Hirte氏も同意見である。
「これは、卵巣がん、肺がん、およびその他の予後不良な腫瘍の治療にとって真の可能性をもたらすものである。
特に卵巣がんは生残率が改善しなかったが、その大きな理由として、免疫抑制性が最も高いタイプの腫瘍の一つであったことが挙げられる。この研究の前臨床モデルで観察された治療効果は、この分野を大きく前進させるものとなる。
次のステップは間違いなく、この有望な治療法を患者での臨床試験に移すことであり、再発性の卵巣がん患者でこのアプローチを検証する方向で、間もなく治験を進められるように計画をしている」
(2021年4月16日公開)