ニュース
24 Feb 2021
神経芽細胞腫は、主に幼児期に発生する悪性固形腫瘍であり、交感神経系の未成熟な細胞の変性により生じる。
この腫瘍の悪性度を評価する予後マーカーとなるのがMYCNがん遺伝子である。神経芽細胞腫の高リスク患者にはMYCNの増幅が見られることが多く、すなわちこのタンパク量が非常に高く、これが腫瘍の増殖を制御不能にしている。
これとは逆に、MYCNを抑制することやその機能については、有望な治療の機会が見込まれている。
この方向性に対する重要な一歩を踏み出しているのがドイツ・バイエルン州のユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(Julius-Maximilians-Universitat Wurzburg:JMU)の研究者らが率いる国際的な研究プロジェクトであり、最近刊行されたNature Cancer誌上で発表された。
●細胞周期におけるMYCNの役割に関するニュース
この論文の共同筆頭著者は、JMUバイオセンター(JMU Biocentre)の生化学・分子生物学の教授職を務めるDr Gabriele Buchel氏である。
責任研究者の説明によると「これまで、MYCNはRNAポリメラーゼの機能を制御することが知られていた。
これにより細胞核内のDNAが読み取られ、それをmRNAに変換する。
我々の研究から明らかになったことは、MYCNが細胞周期のS期に特殊な役割も果たし、そのときにDNAも複製されるという点である」
したがって、この段階では、DNAの読み込みと複製という2つのプロセスが同時に生じている。
Dr Gabrieleの比喩的な言葉によれば、「2台の電車が同じ線路上に乗っている」のである。
●目標: 転写と複製の衝突の促進
Dr Gabrieleは博士課程学生のIsabelle Roeschert氏と共同で、MYCNが電車2台の衝突-いわゆる転写と複製の衝突を阻止することを明らかにした。
このシグナル効果は、Aurora-AとATRの2つの酵素を必要とし、既存の医薬品で両者とも阻害することができる。
したがって、標的となる「列車衝突」を誘発して腫瘍細胞に損傷を与えることができる。また医学的な表現をすれば、両方の薬剤を併用することで、DNA損傷や細胞死を特別に腫瘍だけにもたらす。このとき他の組織が影響を受けることは一切ない。
「神経芽細胞腫のマウスモデルでは、この戦略を使用して腫瘍増殖の退行を達成できた。数例の実験動物では、この併用療法で治癒さえ達成した」とDr Gabrieleはこの「治療」の効果を明らかにしている。
●既に臨床試験の兆しも見えて
Dr Gabrieleによれば、得られた学識が患者に還元される日も近いという。
「我々が使用する物質はいずれも既に市販されている。
Aurora AおよびATRの阻害剤と、我々が使用する併用療法は現在、臨床使用に近い実用的な多数のモデルで検証されているところである。これが成功すれば、臨床試験はすぐに開始できる」とのことである。
https://ecancer.org/en/news/19671-stirring-up-conflicts-in-tumour-cells
(2021年2月16日公開)