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24 Feb 2021
南オーストラリア大学が開発した世界で第1号となる3Dプリント製の食道ステントが化学療法薬の提供に革命を起こした。より正確で、有効であるうえ、個々の食道がん患者に合わせて個別化された治療薬を提供することが可能になる。
ポリウレタンのフィラメントを使用し、化学療法薬の5-フルオロウラシル(5-FU)を組み込んで製作された新しい食道ステントは、基質内に原薬を含有させることに初めて成功した。
独自の組成により、抗がん剤をがんの部位に直接送達し最長110日間持続して、その後の腫瘍増殖を抑制する。
重要な点は、患者に特異的な形状や薬剤投与計画に合わせて個別に調整したステントを迅速に製作することを可能にした3Dプリントの機能である。
南オーストラリア大学で現在博士奨学生のParis Fouladian氏は、この新しい食道ステントが食道がん治療にとって画期的なものになり得ると述べている。
「食道がんの治療は時に過酷で、良い転帰を迎えるためには早期診断が極めて重要となる。
最も顕著な症状は、食道を塞ぐ悪性がん細胞による嚥下障害(飲食物を飲み込むことが困難)である。
閉塞は一般に食道ステントで緩和される。ステントは小さなチューブで、開いたまま食道内に留置されるが、がん細胞内に侵入することにより、それによって食道が塞がれる可能性もある。
我々の新しい薬剤を充填した食道ステントは、抗がん剤を腫瘍に直接投与することにより、さらなる閉塞を予防し、腫瘍がそれ以上増殖するのを阻止すると同時に、嚥下障害の圧力も緩和する」
この新しい薬剤充填3Dプリント製食道ステントは、滅菌処理のUV線にもγ線にも安定性を示す。
食道がんは、世界で7番目に多くみられるがんであり、世界的ながんによる死亡原因の第6位を占める。早期に診断が下されない限り、5年生存率は20%と予後は依然として不良である。
南オーストラリア大学のPharmaceutical Innovation and Development Groupのシニアリサーチャー兼ディレクターのSanjay Garg教授は、この新技術が最新のドラックデリバリーを大いに進展させると述べている。
「薬剤と医用機器を併用する3Dプリントのプロセスは、薬剤送達の方法を変える寸前のところにある。
今は、正確で個別化された症例に合わせたドラッグデリバリーシステムを設計する3Dプリントの可能性を探っているところである。
今後さらに研究を進め、新しい薬剤を充填した3Dプリント製の食道ステントを詳細に検証する必要があるが、この新しい技術が食道がん患者に前向きな結果を届けるものになると期待している」と同教授は語っている。
(2021年2月11日公開)