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02 Dec 2020
テキサスMDアンダーソンがんセンター大学の研究者らは、特定の遺伝的欠陥をもつ脳腫瘍細胞の重要な代謝経路を遮断するPOMHEXと呼ばれる新たな標的治療を考案した。
前臨床試験では、低分子エノラーゼ阻害薬は、エノラーゼ酵素をコードする2つの遺伝子のうちの1つであるENO1を欠損する脳腫瘍細胞の死滅に有効であることが明らかになった。
試験結果は、現在Nature Metabolism誌で発表されている通り、合成致死として知られる治療戦略の原則を証明するものとなり、重要なタンパク質は腫瘍抑制遺伝子の近くのバイスタンダーとして遺伝子削除を通して失われ、冗長なタンパク質は治療上ブロックされる。
「合成致死性は活性化された腫瘍遺伝子をしのぐ精密腫瘍診療の範囲を拡大しうるものであり、主に作用しないと考えられているゲノム欠失の標的化を可能にする可能性がある。我々の研究は、このアプローチが動物モデルで薬剤を使用して実際に作用するという原理を証明するものである」と、がんシステムイメージング&神経腫瘍学准教授であり責任著者のFlorian Muller, Ph.D.は述べている。
エノラーゼは、多くのがんで発現し上昇する代謝経路で細胞増殖を亢進するエネルギー源となる、解糖に関与する基本的酵素である。
ENO1とENO2の2つの遺伝子は、わずかな差ではあるがエノラーゼの冗長なバージョンをコードする遺伝子で、膠芽腫のようないくつかのがんは染色体損失のため、ENO1遺伝子を欠失している。
これによりがん細胞とENO2のみが残って解糖を続行することで、エノラーゼ阻害薬に対する感受性がきわめて高くなるとMuller氏は説明する。
両形態のエノラーゼをターゲットとする治療法はこれまでに考案されているが、ENO1のブロックは正常細胞では不要な副作用となりうる。
ENO2のターゲッティングは、ENO1を欠失しているがん細胞の選択的治療法と考えると特に魅力的である。
したがって、研究チームはHEXと呼ばれるエノラーゼ阻害薬の生成に取り組み、ENO1よりもENO2を優先してターゲットとした。
薬剤が細胞内に入る能力を向上させるため、チームはプロドラッグPOMHEXを作成した。これは細胞内でHEXに代謝されるまで生物学的に不活性である。
ENO1を欠失しているがん細胞系では、POMHEXによる治療法は、解糖を妨げて細胞増殖を阻害し、細胞死を促進した。
これとは逆に、正常なENO1をもつ細胞への投与では、効果は最小限であった。
さらに、ENO1を欠失した腫瘍をもつ動物モデルでは、完全な腫瘍根絶の一部の例で、HEX療法もPOMHEX療法も十分に忍容性を示し、対照群に比べて効果的に腫瘍増殖を妨げた。
チームは、研究をさらにもう一段階進め、治療的に有効な用量を安全に投与できることを複数のモデルで証明し、将来的に臨床試験へと向かう望ましい結果を示唆した。
「我々にとって、これらの新規エノラーゼ阻害薬の前臨床での正常な作用の見込みは、また安全性プロファイルがより高度なモデルにも及ぶことは大いに励みとなった。さらに改善する余地はあるが、HEXさえENO1を削除されたがんに対して有意な臨床活性を示すものと楽観視している」とMuller氏は述べている。
ENO1の欠失は肝がん、胆管がん、大細胞神経内分泌肺がんにおいても生じ、またそのいずれも予後不良で治療選択肢が限られているとMuller氏は説明する。
したがって、至適治療の候補が開発された場合には、多発がんタイプの患者を治療する際にENO2阻害薬を評価する可能性がある。
(2020年11月24日公開)