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02 Dec 2020
ビタミンDとがんとの接点は、突き止められそうで突き止められない状況が長年続き、研究者らは試行錯誤してきた。
日光に曝されビタミンDを多く産生する赤道付近で生活する人々の間で、特定のがんの発生率と死亡率が低いことが複数の疫学的研究で明らかになっている。
研究室の実験やマウスモデルでのがん細胞においては、ビタミンDががんの進行を遅らせることも判明している。
しかし、ヒトを対象とした無作為臨床試験の結果では、明確な答えを得られたことがなかった。
2018年には、Vitamin D and Omega-3 Trial(VITAL:ビタミンDおよびオメガ3の治験)において、ビタミンDはがんの総体的な発生率を低下させるのではなく、がんによる死亡リスクを低下させることが示唆されると結論付けられた。
現在、Brigham and Women’s Hospitalで治験責任医師が率いるチームによるVITALの二次分析において、ビタミンD補給剤の摂取と転移性または致死性のがんのリスクとの接点の絞り込みが行われている。
同チームは、JAMA Network Openで論文を発表し、ビタミンDが進行がんの総体的リスクの17%の低下と関連していたことを報告している。
同チームは、body mass index(BMI)が正常値を示す参加者のみに注目したところ、38%のリスク低下が認められ、ビタミンDと進行がんのリスク低下との関係性に体重が影響を与えている可能性があることが示唆された。
Brigham and Women’s Hospitalのプライマリケア医であり、予防医学部の疫学者である責任著者のPaulette Chandler, MD, MPHは、「これらの所見は、進行がんを呈するリスクをビタミンDが低下させる可能性があることを示唆している。
ビタミンDは、容易に入手できる安価な補給剤であり、数十年にわたり利用され研究されてきた。
我々の所見は、特に正常体重の被験者に認められた確固たるリスク低下は、ビタミンDと進行がんとの関係性に関して新たな情報を提供するものである」と述べた。
VITAL試験は、5年以上にわたって実施された、厳格なプラセボ対照研究であった。
VITAL試験の対象集団は、50歳以上の男性と55歳以上の女性で、治験開始時にがんを有していない者とした。
対象集団は人種的・民族的に多様であった。
VITALは、ビタミンDとオメガ3の補給剤のそれぞれの独立した作用を検証するとともに、両者の相乗作用の検証も行うことを目的にデザインされていた。
参加者を4群に分けた。具体的には、ビタミンD(2,000IU/日)+オメガ3群、ビタミンD+プラセボ群、オメガ3+プラセボ群、いずれもプラセボ群の4群である。
主要評価項目は、主要な心血管系有害事象とがんの発生率とした。
VITALからは総合的ながんの発生率の統計的差異がみられなかったものの、研究者らはがん関連死亡の減少を指摘した。
その二次分析において、Chandler氏と同僚らは、この治験中にビタミンD補給剤を摂取した参加者と摂取しなかった参加者とを対象に、進行性(転移性または致死性)のがんによる死亡の減少の可能性を追跡調査した。
また、BMIの抑制作用の可能性についても検討した。
VITAL試験の25,000例を超える参加者のうち、1,617例にその後5年間で浸潤がんの診断が下された。
これらの例では、複数のさまざまながん(乳がん、前立腺がん、大腸がん、肺がんほか)が含まれていた。
ビタミンDを投与された参加者約13,000例のうち、進行がんの診断を下されたのは226例、対するプラセボ投与群は274例であった。
正常なBMI指数(BMIが25未満)を示しビタミンDを投与された参加者7,843例のうち、進行がんの診断が下されたのはわずか58例、対するプラセボ投与群は96例であった。
BMIに関する同チームの所見は偶然による可能性があるものの、体重がビタミンDの作用に影響を及ぼす可能性については先行研究のエビデンスがある。
肥満とそれに付随する炎症は、おそらくビタミンD受容体の感度を低下させるか、ビタミンDのシグナル伝達を変えることにより、ビタミンDの有効性を抑制している可能性がある。
また、ビタミンDと2型糖尿病の複数の無作為試験では、正常体重の被験者ではビタミンDのベネフィットが大きく、肥満被験者ではベネフィットが一切みられなかった。
ビタミンD欠乏はがん患者には一般的に認められ、ある試験では、がん患者のビタミンD欠乏の割合は72%と高値で報告されている。
体脂肪が多いことも、数種のがんのリスク増大と関連しているというエビデンスもある。
「我々の所見は、先行研究からの結果とともに、転移性がん予防のためのビタミンD補給に関して、現在進行中の評価―生物学的に妥当と思われる接点を裏付けるものである。
がん患者に特化した試験を別途行い、BMIが担う役割を調査することは正当である」とChandler氏は述べている。
(2020年11月18日公開)