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27 Nov 2020
タンパク質に変換されないDNAコードを運ぶ長いRNA分子は、長い間ヒトゲノムの謎であった。
現在、Duke -NUS医科大学の研究者らは、それらの機能を体系的に調査する方法を発見し、そのうちいくつかが膵臓がんに役割を果たす可能性があることを見出した。
Genome Medicine誌に掲載された彼らの発見は、生体内の長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)を調査することの重要性を浮き彫りにしている。
RNAは長い間中間分子と見なされてきた。DNAはRNAをコードし、RNAはタンパク質をコードする。
最近、研究者らは、ヒトゲノムの30億塩基のうち、タンパク質をコードしているのはわずか2%であることを見出した。
ゲノムの残りの98%の多くは非コードであり、かつては既知の機能を持たない、ヒトゲノムの“暗黒物質(ダークマター)”であると考えられていた。
このゲノムダークマターの主な構成要素であるいくつかのlncRNAは、発現から病気に至るまで、多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことが示されている。
「いくつかの高度なツールを組み合わせることで、膵臓がんにおける“重要なダークマター”の役割と機能を調査することができた」と、本研究の筆頭著者であるDuke -NUSのMD / PhD研究生であるShiyangLiu氏は述べている。
具体的には、研究チームは、Wntシグナル伝達と呼ばれる周知の経路によって調節されているlncRNAを特定したいと考えていた。
この経路はタンパク質をコードする多くの遺伝子を調節するが、lncRNAへの影響は不明である。
Wntシグナル伝達は、一部の膵臓がんの増殖を促進することが知られている。
この経路をオフにすることは、膵臓がん治療に役立つだけでなく、それによって制御されているゲノムの部分を特定するのにも役立つ。
本研究を実施するため、研究チームは、Duke -NUSと科学技術研究庁(A * STAR)が共同開発し、現在、膵臓を含むさまざまながんの治療法として臨床試験を進めているシンガポール製のWnt抑制薬であるETC-159に着目した。
研究者らは、ETC-159が膵臓がんの前臨床モデルと実験室で培養された膵臓がん細胞でWntシグナル伝達をオフにしたときにlncRNAに何が起きたのかを比較した。
彼らは、前者では1,503のlncRNAの発現が変化したが、後者ではその半数の発現しか変化しなかったことを発見した。
これは、より自然な環境の中でlncRNAを研究することの重要性を浮き彫りにしていると研究者らは述べている。
次に、遺伝子編集ツールCRISPRを使用して、前臨床モデルおよび膵臓細胞培養で1,503個のWnt調整lncRNAがオフになったときに何が起きたかを研究した。
21個のlncRNAが、生体モデルで膵臓がん細胞の増殖を改変できることが分かったが、がん細胞培養試験では、その半数しか同定されていなかった。
「私たちの研究は、膵臓がんで機能的な役割を果たすゲノムのダークマターのほとんど未知の役割に独自の方法を提供し、がんにおけるWnt調節lncRNAを研究する研究者らにとって貴重なリソースになるであろう」と、本研究の上級共著者であるDuke -NUSのがんおよび幹細胞生物学プログラムのディレクターであるDavid Virshup教授は述べた。Virshup教授のWntに関する独創的な研究は、ETC 159の開発に繋がった。「Wnt調整lncRNAのサブセットが、がんにおけるWntシグナル伝達の発がん作用のメディエーターとして機能できることを理解することは、プレシジョンがん治療の潜在的な新しい標的を提供する」
本研究の上級共著者でもあるDuke-NUSの心臓血管および代謝障害プログラムのEnricoPetretto准教授は、次のように述べている。「以前の研究と比較して、in vitroで検出できる2倍のlncRNAをin vivoで同定した。これらの多くは、in vivoでのみがん細胞の増殖に重要であり、より効果的ながん治療の開発のための重要な手がかりを提供する」
(2020年11月16日公開)