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29 Nov 2019
免疫療法は、悪性黒色腫など数種類の癌治療で標準治療になっている。
しかし、免疫療法を行っても、腫瘍が免疫細胞の検出から逃れる場合がある。
Cancer Immunology Research誌に発表された新たな研究でMoffitt Cancer Centerの研究者たちは、マイアミ大学のMiller School of Medicineと共同で、免疫細胞による腫瘍細胞の認識を制御する細胞メカニズムについて説明している。
進行性悪性黒色腫の免疫系を活性化する薬剤はアウトカムを著しく改善し、多くの患者は免疫療法後に長期的応答を示す。ただし、Translational Science at Moffittのassociate center directorであるJamesMulé Ph.D.によれば、「悪性黒色腫患者の中には免疫療法に基づいた治療では臨床的な改善がみられない患者が一定数存在する。免疫応答の成功と失敗の両方の根底にあるメカニズムを理解することは、免疫療法の改善に役立つ可能性がある」という。
Moffittの研究者は、患者が免疫療法にうまく反応しない理由の1つは、免疫系が腫瘍細胞を適切に認識しないためだと考えている。
彼らは、STINGタンパク質シグナル伝達経路が免疫細胞の認識に寄与する因子である可能性があるという仮説を立てた。
STING経路は、インターフェロンと呼ばれるタンパク質メッセンジャーの産生を刺激することにより、免疫系の活性化に寄与することが知られている。
STINGシグナル伝達の欠陥は、悪性黒色腫など数種類の癌で報告されている。ただし、これらの欠陥が及ぼす影響は不明である。
STINGシグナル伝達の欠陥がどのように癌に寄与するかについての理解を深めるために、Moffittチームはヒトメラノーマ細胞株で一連の実験を行った。
研究者たちは、STINGの発現を完全に失い、経路を活性化するシグナル伝達に反応しない多くのヒト黒色腫細胞株があることを見出した。
彼らはまた、いくつかのヒト黒色腫細胞株がSTINGの発現を維持しているものの、シグナル伝達経路を活性化できないことを発見した。
これは、STING発現自体の喪失のほかにも、STINGシグナル伝達の欠如の原因となっている未知のメカニズムが存在する可能性があることを示唆している。
通常の状況でSTINGシグナルがどのように機能するかを決定するために、研究者らは機能的なSTING経路を発現するヒトメラノーマ細胞株で実験を行った。
彼らは、STINGの活性化が炎症と免疫応答を刺激する分子メッセンジャーであるインターフェロンβとCXCL10の産生をもたらすことを発見した。
STINGの活性化により、ヒトメラノーマ細胞は、細胞表面上のMHC分子と呼ばれるタンパク質の発現レベルを増加させ、T細胞とよばれる免疫細胞によって認識および標的化される。逆に、機能不全のSTINGシグナル伝達を有するヒトメラノーマ細胞は、T細胞によって認識されることがはるかに少なかった。
本研究結果は、腫瘍細胞が免疫検出を回避するメカニズムの1つが、STING経路の変化による可能性があることを示唆している。研究者たちは、本研究が免疫細胞の活性化に対する理解の向上と患者へのより良い治療につながることを期待している。
「悪性黒色腫やその他のタイプの腫瘍におけるSTINGの調節と機能をさらに理解することで、STING経路を標的とする治療戦略の開発につながる。また、現在これらの介入による恩恵を受けていない患者の養子細胞療法や他の免疫療法の有効性を向上させる可能性がある」とミュレ氏は述べた。
(2019年11月4日公開)