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e-cancer:血液がん ASH 2025:「既製」T細胞遺伝子治療が「不治の病」とされてきたT細胞白血病に挑む

18 Dec 2025

UCL (University College London) および Great Ormond Street Hospital (GOSH) の研究者らが開発した、ゲノム編集を施した免疫細胞を用いた画期的な新規治療法が、T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)と呼ばれる希少かつ進行性の血液がんに対し、小児および成人患者の治療において有望な結果を示した。

世界初の遺伝子治療(BE-CAR7)は、塩基編集を施した免疫細胞を用い、これまで治療困難であったT細胞性白血病において患者の寛解達成を可能にするものであり、こうした進行性のがんに直面している家族に新たな希望をもたらしている。

塩基編集はCRISPR技術の進化版であり、生きた細胞内でDNA配列の単一塩基を正確に改変することが可能な技術である。

2022年、GOSHおよびUCLの研究者らは、「塩基編集」技術を用いた世界初の治療を、レスター出身の13歳の少女 Alyssaに実施した。

現在、GOSHおよびKing’s College Hospital (KCH) において、さらに小児8人と成人2人がこの治療を受けている。

臨床試験の結果は、New England Journal of Medicine誌に掲載され、第67回 American Society of Haematology Annual Meetingにおいて発表された。

本研究の主な知見は以下のとおりである:

  • BE-CAR7治療後、患者の82%が非常に深い寛解を達成し、無病状態を確認した上で造血幹細胞移植へ進むことが可能となった
  • 64%の患者が無病状態を維持しており、最初に治療を受けた患者群は治療終了後3年間無病状態を継続している
  • 低血球数、サイトカイン放出症候群、皮疹といった予想されていた副作用はいずれも許容範囲内であり、最大のリスクは免疫機能が回復するまでの期間におけるウイルス感染であった。

新技術

CAR-T細胞を用いた免疫療法は、最近、複数の血液がんの治療法として利用可能となっている。

この治療法では、T細胞と呼ばれる免疫細胞を用い、その表面にキメラ抗原受容体(CARs)と呼ばれる特定のタンパク質を発現させるよう改変する。

CARは、がん細胞表面に存在する特定の「標識」を認識・標的化することができ、これによりT細胞はそのがん細胞を破壊する。

白血病は異常なT細胞から発症する疾患であるが、その治療法としてCAR T細胞療法を開発することは困難とされてきた。

BE-CAR7 T細胞は、DNAを切断することなく改変を行う次世代のゲノム編集技術である塩基編集を用いて設計されており、染色体損傷のリスク低減が可能とされている。

CRISPRの誘導システムを用いて極めて精密な化学反応を実施し、DNA配列の単一塩基を置換することでT細胞を改変した。

2022年に報告されたとおり、こうした複雑なDNA改変により、患者に投与した際にT細胞性白血病を認識・攻撃可能な「汎用型」CAR T細胞の保存可能なバンクが構築された。

本研究で用いられた「汎用型」CAR T細胞は、健常ドナー由来の白血球から作製され、Great Ormond Street Hospitalのクリーンルーム施設において、研究チームが以前に開発した自動化プロセスを用いて改変工程が実施された。この過程では、特注のRNA、mRNA、およびレンチウイルスベクターが使用された。

工程は以下のとおりである:

  1. 既存の受容体を除去することで、ドナー由来のT細胞をレシピエントとの適合を必要とせずに保存・使用可能とし、「汎用型」とした。
  2. T細胞であることを示す「標識」であるCD7(CD7 T細胞マーカー)を除去する。この工程を行わなければ、T細胞を攻撃するようにプログラムされたT細胞が、「同士討ち」によってその製品そのものを破壊してしまうことになる。
  3. CD52と呼ばれる第2の「標識」を除去する。これにより、患者の免疫系を抑制するために投与される強力な抗体薬の一つに対して、改変された細胞は認識されなくなる。
  4. 白血病性T細胞上のCD7というT細胞標識を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を追加する。不活化ウイルスを用いて細胞内に追加のDNA配列を導入することで、細胞はCD7に対する攻撃能力を獲得し、T細胞白血病を認識して攻撃するようになる。

塩基編集されたCAR T細胞を患者に投与すると、白血病性T細胞を含む体内のすべてのT細胞を速やかに認識し、破壊する。

白血病が4週間以内に根絶された場合、患者の免疫系はその後、数ヵ月をかけて骨髄移植により再構築される。

「われわれは以前、進行性の血液がんを有する小児患者を対象に、精密ゲノム編集を用いた治療で有望な結果を示したが、今回、より多くの患者数で同様の結果が得られたことで、この治療法の有効性が裏付けられた」と、本研究を主導したUCLの細胞・遺伝子治療学教授であり、GOSHの名誉顧問免疫学者でもあるWaseem Qasim教授は述べている。

「われわれは、汎用的な、あるいは「既製」の塩基編集CAR T細胞が、治療抵抗性の極めて高いCD7陽性白血病を標的として認識し、破壊できることを示した」

彼はまた、次のように付け加えた:「病院と大学全体で多くのチームが関与し、患者の疾患が消失したことを喜ぶ一方で、一部の小児において期待どおりの転帰が得られなかったことも、深く認識している。これらは非常に負担が大きく、困難な治療である。患者とその家族は、それぞれの経験から可能な限り多くを学ぶことの重要性を寛大に受け止めてくれている」

GOSHの研究責任者であり、骨髄移植コンサルタントのRob Chiesa博士は次のように述べた:「T細胞白血病の小児患者の多くは標準治療に良好に反応するが、約20%は反応しない可能性がある。まさにこうした患者こそ、より良い治療選択肢を切実に必要としており、本研究は、この希少ではあるが進行性の血液がんと診断されたすべての人にとって、より良好な予後への希望をもたらすものである」

「Alyssaが次第に力を取り戻し、さらに良くなっていく姿を見ることは驚くべきことであり、彼女自身の粘り強さとGOSHの文字どおり「小さな軍隊」とも言える多くの人々の献身の証である。骨髄移植チーム、血液内科、病棟スタッフ、教員、プレイワーカー、理学療法士、検査部門および研究チームなど、さまざまな部門の連携こそが、患者を支える上で不可欠である」

KCHの血液学専門医であるDeborah Yallop博士は次のように述べている。「これまで治療不能と思われていた白血病が消失するという、驚くべき治療効果を目の当たりにしている。これは極めて強力な治療アプローチである」

本試験はGOSHが主導し、Medical Research Council、Wellcome、National Institute for Health and Care Research(NIHR)の支援を受け実施され、英国の国民保健サービス(NHS)の医療提供対象となる患者を対象とした。

NHSによる治療の対象となり、本試験への参加に関心のある患者は、担当の専門医療従事者に相談することが望ましい。

Great Ormond Street Hospital Charity(GOSH Charity)は、新たな最先端治療選択肢への道を切り開くためにQasim教授へ初期資金提供を行ってきたが、今回さらに、T-ALL患者の拡大コホートの一環として、追加で10人の患者に対する治療支援に合意した。

200万ポンド以上の資金提供により、より多くの小児が本臨床試験に参加できるようになる。この取り組みは、先進的な研究が発展できる環境づくりを目的として、GOSHに世界最高水準の新たな小児がんセンターを建設するために進められている、GOSHチャリティの継続的な資金調達活動とも連動している。

最初の患者は順調な回復を続けている

レスター出身のAlyssa Tapley(16歳)は、世界で初めて塩基編集を用いた細胞治療を受けた患者であり、13歳だった2022年にその体験を公表している。

当時、白血病は検出不能となっていたものの、慎重ながらも前向きな見通しのもと、厳重な経過観察が続けられていた。

現在、彼女は長期経過観察へ移行しており、友人たちとの生活を積極的に楽しんでいる。

Alyssaは2021年5月、家族が当初は風邪やウイルス感染、一般的な疲労だと思っていた症状が長く続いた後に、T細胞性白血病と診断された。

彼女は、化学療法や初回骨髄移植といった標準治療に反応せず、研究参加の機会が提案された時点では、緩和ケアという選択肢について話し合っている状況であった。

Alyssaは次のように語っている:「たとえ自分には効果がなかったとしても、他の人の役に立つかもしれないと思い、研究に参加することを選んだ。それから数年が経ち、この治療が実際に効果を発揮したことが分かり、私はとても元気に過ごしている。10代のうちに経験すべきことは、一通りやってきた」

「セーリングやDuke of Edinburgh Awardの活動で家を離れて過ごしたこともあるが、病気のときには学校に通うことさえ夢見ていたことだった。今は何一つ当たり前だとは思っていない。次の目標は運転免許の取得だが、究極の目標は研究科学者になって、私のような人々を助ける次の大きな発見に携わることだ」

BE-CAR7細胞は、GOSHの名誉顧問であるUCL Great Ormond Street Institute of Child HealthのWaseem Qasim教授が主導する長期研究プログラムの一環として製造された。

NIHR、Wellcome、Medical Research Council、GOSHチャリティからの資金提供により、Qasim教授は革新的なゲノム編集技術を含む遺伝子治療由来の新たな治療法開発における先駆者となっている。

同チームは現在、UCLとGOSHの共同運営によるZayed Centre for Research into Rare Disease in Childrenを拠点としている。

この最先端の研究機関は、Fatima bint Mubarak殿下による並外れた慈善支援によって実現した。

2014年、殿下は亡夫Sheikh Zayed bin Sultan Al Nahyan殿下に敬意を表して、GOSH チャリティに6,000万ポンドの寄付を行った。

研究チームは、Anthony Nolanおよび血液・造血幹細胞を提供したボランティアの方々、ならびに本研究に参加した患者とその家族に深い感謝の意を表している。

 

https://ecancer.org/en/news/27421-ash-2025-ready-made-t-cell-gene-therapy-tackles-incurable-t-cell-leukaemia

(2025年12月10日公開)

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